山本特許法律事務所

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Therasense事件 - 情報開示義務 -2011年8月

米国連邦高裁CAFC判決2011年5月25日

特許出願人に課せられた情報開示義務に対する違反に起因する不公正行為の判断基準を連邦高裁CAFCが大法廷で明確化した事件です。本件は、地裁に差し戻されました。そしてこの新判断基準に基づいて地裁にて事実に沿って具体的に判断されることになります。

原告の特許権者Therasenseが被告のBectonを特許侵害でカルフォルニア北部地裁に訴えたところ、特許審査手続において原告が米国特許庁での主張に反する主張を欧州特許庁で行っていたにもかかわらず、そのような重要な主張を米国特許庁に提出しなかったのは米国特許庁を欺く意図があったとして原告による不公正行為が認定され、特許権の権利行使不能と判定されました。原告がこの判決に不服で、CAFCに控訴したのが本件です。

従来、不公正行為は重要性(materiarity)と意図(intent)の要件を立証することで認定され、その結果、特許は権利行使不能と判断されていましたが、両要件のバランスをどうとるべきか、それぞれの要件の適切な基準は何か、どのような状況下で一方の重要性から他方の意図を推定するのが適切なのか、が今回のCAFCでの議論でした。

重要性については、but for testによる証拠が必要。出願人が情報を隠さなければ、米国特許庁はそのクレームを特許にしなかったであろうと裁判所は認定することになります。

意図については、出願人による米国特許庁を欺こうとの故意の決断のあったことを示す明確で確信に足る証拠が必要。出願人がその情報の重要性を知っていたはずで、しかも特許庁に提出しないと決断したという立証では、欺く特定の意図を立証したことにはなりません。

CAFCは、この両要件の一方の立証不足分を他方で補てんし合う従来の手法(sliding scale approach)を否定。両要件は、分離して判断されます。

権利行使不能についても、重要性と意図の両要件が立証されたからといって、直ちには認定されない、衡平法(equities)を重要視すべきとの認定。特許権者による不実行為の結果、本来認められるべきでないクレームを取得して不正な利益を得てしまうというような不公正行為があって初めて権利行使不能とされる。

不公正行為の判断基準が高く厳しくなった分、出願人は実務的には情報開示義務に関し、少し気を緩めることが出来そうですが、油断してはなりません。 従来通り、関連する全ての先行技術文献を米国特許庁に提出することをお勧めします。先行技術文献は対象となるクレームの範囲を最も広く解釈した上で、先行技術文献を選択し、そしてbut for testに供するのがよいと思います。

米国特許庁は情報開示( IDS )要件について、早速、改正案を公表(7/21/11官報)したようですが、まだ流動的です。動きを注視したいと思います。

山本秀策

本稿に記載の見解は私の現時点での個人的見解であり、当事務所の過去・現在・将来のいづれの時点での見解でもありません。

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