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特許の存続期間延長事件2011年8月

日本国最高裁判決2011年4月28日

特許権者の主張を全面的に認めた原審知財高裁の判断(前回に記載)に不服で特許庁が上告したものの、原審判断が正当と認定され、上告棄却された事件です。

後行医薬品と同じ「有効成分・効能・効果」の先行医薬品が薬事法上の製造販売承認(先行処分)を受けている場合でも、先行医薬品が後行医薬品の延長登録出願に係る特許権の特許発明の技術的範囲に属しないときは、その先行医薬品についてのその先行処分がされていることをもって、後行医薬品について「製造販売承認を受けることが必要であったとは認められない」ということはできない、との認定です。

先行医薬品が後行医薬品の特許発明の技術的範囲に属しない以上、先行処分がされていたからといって、後行医薬品がその実施に当たる特許発明を実施することができたとはいえないから、との理由です。

至極当然の判断です。薬事法上の製造販売承認が薬事法所定の承認審査対象事項ごとになされますので、両医薬品は個別に製造販売承認を受けることになるにもかかわらず、先行医薬品が既に承認されているから後行医薬品について別個に承認を受けなくても特許発明の実施ができたはずという特許庁の従来の考えは、あまりに乱暴。先行医薬品が後行医薬品の特許に牴触しないということですから、なおさらです。

この上告審では、「処分の対象となる物とは何か」については判断していませんが、「その物とは、有効成分および効能・効果ではなく、成分、分量、構造をいう」との原審知財高裁での判断や、この原審判断と同一でこの上告審判断が出る直前の別の事件の知財高裁判決(平22(行ケ)10177号 2011年3月28日判決)に沿った形で、特許庁審査基準が改正されました。特許庁はそれに沿った審査を既に行って、1件の特許権(例えば、特許2578475号)に関し例えば分量のみが異なる医薬品について次々と数件分の存続期間延長を認めています。処分の対象物が「有効成分や効能・効果」ではなく「成分、分量、構造」であるのなら、先行医薬品と後行医薬品との牴触関係の有無にかかわらず、製造販売承認などの処分を受けることで禁止が解除され、それにより実施する行為がその特許発明の実施行為に含まれる限り、存続期間の延長を特許法67条の3第1項1号により拒否することが出来ません。

今後は、延長された物の特許権の射程はどの辺までかが議論されてゆくことでしょう。

山本秀策

本稿に記載の見解は私の現時点での個人的見解であり、当事務所の過去・現在・将来のいづれの時点での見解でもありません。

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