特許の存続期間延長事件2010年10月
日本国知財高裁判決2009年5月29日
特許法68条の2にいう「政令で定める処分」の対象となった「物」とは、「有効成分」のことであるとした特許庁判断を否定し、薬事法所定の承認により与えられた医薬品の「成分」、「分量」および「構造」によって特定された「物」を意味する、と認定した事件です。
特許庁は、従来から、ある有効成分の医薬品に製造販売承認が既に認められている場合には、分量や剤形を変えることで優れた薬効を示すに至ったという医薬品であっても、その有効成分が先の医薬品と同一というだけで存続期間の延長を認めなかったのです。
しかしながら、現実には、有効成分が同じであっても剤形が異なる医薬品であるかぎり、厚生労働省からの新たな製造販売承認が必要(例えば、本件のように内服液とカプセルの関係)です。その承認が下りない限り、剤形の異なる医薬品の製造販売は認められません。しかもその医薬品に特許が成立している場合には、承認の下りない製造販売禁止期間に相当する期間分が実質的に特許存続期間を侵食されているのです。
今回の知財高裁判決は、きわめて現実に則した判断であり、存続期間延長を認めないという特許庁の根拠条文67条の3第1項1号の該当性の誤りを指摘したうえで、承認対象となる「物」を薬事法所定の承認審査対象事項と対比整合させることで、特許法の「政令で定める処分」の対象となった「物」とは、前記のように医薬品の「成分」、「分量」および「構造」によって特定された「物」を意味すると判じました。
剤形を変えることで特許の存続期間を延ばすことが可能になりました。特に有力な医薬品について手を変え品を変えて他社に対して排他独占権を長期間有効に主張できる余地ができたということです。もっとも、本件は、現在、最高裁に行っています。最終結着の予断は許されませんが、今回の高裁判決は、大変合理的かつ妥当であり、しかも大型新薬の出にくくなった薬業界の窮状に照しても適切な判断ではなかったでしょうか。
平成20年(行ケ)10458号
山本秀策
本稿に記載の見解は私の現時点での個人的見解であり、当事務所の過去・現在・将来のいづれの時点での見解でもありません。